モロー反射とは何か? – 赤ちゃんの神秘的な反射行動
新生児を抱いていると、
突然両手を大きく広げてビクッとする様子を見たことがある方も多いでしょう。
これは「モロー反射」と呼ばれる現象で、赤ちゃんの持つ原始反射の一つです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ自分の意思で体をコントロールすることができないため、
外部からの刺激に対して本能的に体が反応する仕組みが備わっています。
その代表的な反応の一つがモロー反射であり、大きな音や体の位置の変化に対して、
まるで驚いたように手足を広げ、その後ぎゅっと抱きつくような動きを見せます。
この反射は、生まれてすぐの赤ちゃんにとってとても重要な生理機能であり、
神経系の発達や健康状態を知る手がかりにもなります。
通常は成長とともに自然に弱まり、数か月のうちに消失していくものですが、
その過程にも発達の大切なサインが含まれています。
今回は、このモロー反射について、
なぜ起こるのか、
どのように変化していくのかを詳しく探っていきましょう。

モロー反射の基本的な仕組み
モロー反射(Moro reflex)は、
1918年にオーストリアの小児科医エルンスト・モローによって発見されたことから、この名前が付けられました。
別名「抱きつき反射」や「驚愕反射」とも呼ばれています。
この反射は、生まれたばかりの赤ちゃんに特有の原始反射の一つで、
大きな音や強い光、急な振動、姿勢の変化などの予期せぬ刺激を受けたときに起こります。
反応の流れとしては、まず赤ちゃんは手足をビクッとさせ、次に両手を大きく広げてバンザイをするような姿勢をとり、
その後、腕を胸の方に引き寄せて抱きつくような動きをします。
この一連の動作は、まるで赤ちゃんが突然何かにしがみつこうとしているかのように見えるため、
「抱きつき反射」という呼び方が生まれました。
医学的には、赤ちゃんの神経系が正常に機能しているかを確認する重要なサインとされ、
新生児健診でも観察されるポイントのひとつです。
モロー反射が起こる条件
モロー反射は、
様々な刺激によって引き起こされます。
主な誘発要因には以下があります。
聴覚刺激
- 大きな音や突然の音
- ドアの閉まる音
- 手を叩く音
- 掃除機の音など
触覚・感覚刺激
- 急激な体位変化
- 支えを急に取り除く
- 冷たい物に触れる
- 明るい光を急に当てる
医学的検査での誘発
小児科医は、赤ちゃんの神経系の発達を確認するため、意図的にモロー反射を誘発することがあります。
一般的な方法として、赤ちゃんの頭と肩を軽く持ち上げてから急に支えを外すという手法が用いられます。
モロー反射はいつからいつまで?
モロー反射は、生まれた直後から見られる反射です。
出産後すぐにこの反射があるかどうかを確認することで、赤ちゃんの神経系の発達や健康状態を判断する材料になります。
消失時期
モロー反射は永続的なものではありません。
赤ちゃんの神経系が成熟するにつれて徐々に弱くなっていき、最終的には消失します。
赤ちゃんの発達には個人差があるため、生後6ヶ月を過ぎても軽度のモロー反射が見られる場合もありますが、
一般的には生後4-5ヶ月頃までには消失することが多いです。
生後6ヶ月を過ぎてもモロー反射が残存している場合は、神経系の発達に遅れがある可能性があります。
逆に、生後2-3ヶ月で完全に消失してしまう場合も、注意が必要な場合があります。
発達段階別のモロー反射の変化
生後0-1ヶ月:最も活発な時期
この時期のモロー反射は非常に顕著で、
わずかな刺激でも強い反応を示します。
- 反応の強さ
全身を使った大きな動きを見せる - 頻度
1日に何度も観察される - 睡眠への影響
頻繁に自分の反射で目を覚ます
生後1-3ヶ月:徐々に軽減
この時期になると、反射は徐々に弱くなり始めます
- 選択的反応
より大きな刺激にのみ反応するようになる - 持続時間の短縮
反射の動作時間が短くなる - 睡眠の改善
深い睡眠時間が増え、反射による覚醒が減る
生後3-6ヶ月:消失過程
この時期には、ほとんどの赤ちゃんでモロー反射が消失し始めます
- 刺激閾値の上昇
より強い刺激でないと反射が起こらなくなる - 意識的動作の発達
反射に代わって、意識的な手足の動作が増える
日常生活での対応方法
赤ちゃんを驚かせないための工夫
モロー反射は、健康な赤ちゃんの正常な反応ですが、
不必要に赤ちゃんを驚かせないための配慮は重要です
- 音環境の配慮
大きな音を立てないよう注意する - 動作をゆっくりと
急激な体位変化を避ける - 安定した支え
抱っこや寝かせる際は、しっかりと支える
おくるみの効果
モロー反射によって頻繁に目を覚ましてしまう場合、おくるみ(スワドル)が有効です。
適切におくるみで包むことで以下のような効果が期待できます。
- 反射による手足の動きを制限できる
- 安心感を与えることができる
- より深い睡眠を促進できる
ただし、モロー反射は脳の発達を促すうえで必要な反射です。
覚醒している時、機嫌よく遊んでいる時などはおくるみをする必要はありません。
また、おくるみを使用する際は股関節脱臼のリスクを避けるため、足の部分は余裕を持たせることが重要です。
室内環境の整備
- 温度管理
急激な温度変化はモロー反射を誘発しやすいため、室温を一定に保つ - 照明の工夫
急激な明暗変化を避け、間接照明を活用する - 音の管理
生活音は完全に消す必要はないが、突然の大きな音は避ける
寝室の工夫
- マットレスの選択
適度な硬さのマットレスで、沈み込みすぎないものを選ぶ - 寝具の準備
肌触りの良い、静電気の起きにくい素材を選ぶ - 安全対策
ベビーベッドの周りに物を置きすぎない
モロー反射と睡眠の関係

多くの新生児は、モロー反射によって睡眠が妨げられることがあります。
眠っている際に小さな刺激でモロー反射が起こり、それによって完全に目を覚ましてしまうのです。
赤ちゃんを抱っこで寝かしつけたあとに布団へ下ろすときは、できるだけ体を自分に密着させたまま、そっと寝具へ移しましょう。
ポイントは、赤ちゃんの全身がマットレスに触れた瞬間に腕を離すこと。
赤ちゃんの頭が後方へ傾いたときに、モロー反射は起こりやすいため、せっかく眠った赤ちゃんが起きてしまうことがあります。
そのため、抱き下ろすときは体の傾きをなるべく水平に保つことが大切です。
また、下ろす直前に背中やお尻を軽くトントンして安心感を与えたり、敷布団をあらかじめ少し温めておくと、布団に触れたときのひやっとした感覚を減らせてスムーズに寝入りやすくなります。
モロー反射以外の原始反射
赤ちゃんはママのお腹の中で成長しますが、
産まれた後すぐに外の環境に適応できるわけではありません。
そこで、初めての環境に順応し生きていくために備わっている反応があり、これを「原始反射」と呼びます。
以下では、モロー反射以外の原始反射について紹介します。
バビンスキー反射
足の裏の外側を踵からつま先に向かって刺激すると、親指が反り返るように上がり、他の指が扇状に広がる反射です。
生後6ヶ月〜2歳頃まで見られ、中枢神経系の発達を確認する重要な指標となります。
吸てつ反射
口の周りや唇に触れると、
自動的に吸う動作をする反射です。哺乳に必要な重要な反射で、生後3〜4ヶ月頃まで見られます。
この反射が弱い場合は、哺乳に問題が生じる可能性があります。
歩行反射
赤ちゃんを直立させて足を床につけると、
まるで歩くように足を交互に動かす反射です。
この反射は別名「自立歩行反射」や「原始歩行」とも呼ばれ、将来の歩行能力の基礎となる反射です。
ママのお腹の中にいる頃から見られ、生後5、6ヶ月頃に消失するでしょう。
把握反射
手のひらに指などを置くと、
ギュッと握りしめる反射です。生後3〜4ヶ月頃まで見られ、原始的な生存本能の一つと考えられています。
この反射が消失することで、意識的に物を掴む動作ができるようになります。
探索反射
赤ちゃんの口の周りや頬に軽く触れると、
触れられた方向に顔を向ける反射で、「ルーティング反射」とも呼ばれます。
生後3〜4ヶ月頃まで見られ、授乳時に母親の乳房を探すための重要な反射です。
非対称性緊張性頸反射
非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、
赤ちゃんの頭を左右どちらかに向けると、そちら側の腕と脚が伸びて、反対側の腕と脚が曲がる原始反射です。
この原始反射は、生後3~4ヵ月頃まで見られます。
まとめ
モロー反射は、新生児が持つ神秘的で重要な生理機能の一つです。
進化の過程で獲得されたこの反射は、現代でも赤ちゃんの神経系の健康状態を評価する重要な指標となっています。
ママやパパにとっては、時として睡眠の妨げとなることもあるモロー反射ですが、これは赤ちゃんが正常に発達している証拠でもあります。
適切な理解と対応方法を知ることで、この時期をより穏やかに過ごすことができるでしょう。
もしモロー反射について気になることがある場合は、遠慮なく小児科医に相談することをお勧めします。
専門家のアドバイスを受けることで、より安心して子育てに取り組むことができます。
赤ちゃんの成長過程において、
モロー反射は一時的なものです。やがて消失し、より高度な運動機能や認知機能へと発達していく過程の一部として、この貴重な時期を大切に見守っていきましょう。
